元配信者のラジオ

「本日、行われた成人式では、たくさんの新成人たちが集まり……」

スマートフォンのラジオアプリから流れる音声。

ラジオではどうやら成人式での話が取り上げられているようで、その場にいる若者たちのガヤガヤとした賑やかな声が、ノイズ交じりに流されている。

しばらくして、華奢な見た目をした若い女性の店員が、先ほど注文していたマルゲリータピザを運んできた。

「あの……すみません……」

女性の店員は手に持っていたマルゲリータピザをテーブルの上に置くと、何か言いたげな様子で恐る恐る、ラジオの音声を流し続ける女性へと声をかけようとする。

「あ、うるさかったですか? ごめんなさい、すぐ消します」

店員が言おうとしていたことを察したのか、彼女はすぐに流れていたラジオを止め、皿の上の辛味チキンを1ピース手に持つと、食べにくそうに齧りつく。

「私、骨のついた鶏肉って嫌いなんですよね」

 

哀愁感がどこか漂うカンツォーネが流れる店内に、等間隔に並べられているテーブル席の一角。

彼女の目の前にいた男は、先ほどの店員が運んできたマルゲリータピザの一切れを高く持ち上げると、切れ端から伸び続けて切れないままのチーズの間から、彼女の目を見て言う。

「じゃあ、なんで頼んだんだよ」

「先輩の奢りなんで」

ありがとうございます。と言いながら後輩の女は、グラスに入ったメロンソーダをストローで吸い上げていた。

 

成人式の日。今日はサイゼリヤに呼び出した人物との待ち合わせが、この2人に課せられた仕事内容だった。

 

男が少し目を離した隙に、後輩の女は男が頼んだマルゲリータピザの一切れを盗み、美味しそうに頬張りながら話す。

「そういや先輩って、昔に『配信者』やってたんですよね。その時のおもしろ話、全く興味ないですけど暇なんで聞いてあげてもいいですよ」

ニコニコ生放送で生配信をしてた時はあったけど。あと今、先輩に対して上から目線で言った?」

盗んだピザの一切れを食べ終えた後輩の女は、眉のあたりにしわを寄せながら手を拭き、先輩の男の話を聞く体勢を取る。

 

ニコニコ生放送。日本最大と謳うライブ配信サービスで、ほかにもYoutubeでのライブ配信以外にも様々な配信サービスがある中で、それでもなおニコニコ生放送における配信者と視聴者の数は多い。

男は高校生の頃、そのニコニコ生放送で1人の配信者としてライブ配信を行っていた。

もともと男が配信を始めたきっかけというのは、たまたま視聴した1人の女性配信者が魅力的だったというあまりにも不純すぎる理由で、そこからズブズブと配信サービスの沼へと沈んで行ったのだった。

「本当に不純で最低な理由ですね。死んでください」

後輩の女は、皿の上の辛味チキンを手に取ると小さく呟く。

最初に男が行った配信は、雑談配信だった。配信者の日常報告や、視聴者がコメントを送り、それに対して反応をする配信ではよくある内容だった。

しかし、男には特に秀でた芸もなく、また人に話せるほど充実した生活を送っているわけではなかったため、配信で話せる内容はほとんどなく、なんとも言えない微妙な空気と、それに比例するかのように来ないコメント欄との闘いだった。

「一枠30分か……」

配信画面を見つめ、男は唇を嚙みしめながら言う。ニコニコ生放送における一枠の制限時間は、わずか30分。持つ芸も、来る気配もない、男の配信はまさに虚無との闘いだった。

「まぁ、結局当時、テトリスが流行ってたからテトリスの配信してたんだけどさ」

「ゲーム実況って奴ですよね。見たことありますよ」

男が続けて話を始めようとした時、突然2人の耳に若い女性の声が飛び込んでくる。

声のする方に顔を向けると、目の前には1人の女性が立っていた。

「すみません、遅くなってしまって」

後輩の女は「いえいえ」と答えながら軽く会釈をすると、再び手に持っていた辛味チキンを口へと運ぶ。

女性の方は、慌ててここまで来たのか、少しだけ乱れていた髪の毛を整えると、後輩の女が座っている方のソファーへと座った。

「なんで……?」

自分の目の前に座った女性を見た男は、驚いた様子ですぐに後輩の女へと視線を向ける。

男の視線に気づいた後輩の女は、不敵な笑みを浮かべると先輩の男に向けて言う。

「1月に書いた記事をなんとかして4週目で全部繋げたいので、来てもらいました。紹介します。こちらは、前の記事の『トマトが嫌いな女』です」

「素人がそんな手の込んだ文章の書き方をするなよ」

 

3人の近くの席に座っていたスーツを着た細長い男の客に今の話が聞こえたのか、ケタケタと笑っているように見えた。

 

 

改めましてお目にかかりますは、わたくし、白濁亭びゅる太郎と申します。

いやぁ最近ね、あまりにも寒いもんだから。女房が押し入れから電気毛布なんてのを引っ張り出してきまして。

「一度入ると出れないよ」なんてことを女房が言いよるもんですから。

「おいおい、それじゃあ墓みたいじゃないか」なんて言いながらね、どれどれ、どんなもんかと布団の中に入ってみると、それがまぁ暖かいのなんの。

極楽浄土はここにあったんかっていうくらい暖かいんですわ。

しかし、あたしゃ「こりゃいかん」と思ったもんですから。思い切って布団から出てみるとね、それはそれは布団の外は極寒の寒さをしてましてね。

あたしの家は女房が嫌がるからつって、暖房を付けていないもんだから。

まるで雪の降る道を素っ裸で歩いてるような寒さで。

「寒い……寒い……」って震えながらまた布団の中に戻っちまって。しばらくして、いやいや、こりゃいかん。と、また布団の外に出るを繰り返してたんです。

そしたら、あたしの姿を見ていた女房がこう言うんです。

 

「頼むから、墓からは出てこないでくれ」って。

 

心も体も言葉も冷たく感じました。

女房いなかったわ。

おあとがよろしいようで。

 

大人になっても魔法とか、超能力とか言うんですか。』をご覧のみなさん、白瀬濁です。

すみません、先にすごいどうでもいい話します。

 

「そういえばこの前、マッチング初詣アプリで暇だったから、ふざけた名前で遊んでたんだけど、そしたら男とマッチングして」

「なんであんなふざけたアプリで、ふざけた名前を付けてるんだよ」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。何事においても名前というのは、付いてますから」

「一応聞くけど、その名前って何?」

「名前? 『白濁びゅるる』って名前でやってたけど」

 

のくだりを入れようと思ったけど、めんどくさくなったので没にしました。

ここで供養させていただきます。成仏してください。

 

話は変わるんですが、白瀬濁/白濁びゅるる名義で友達のGHOSTくんとラジオをします。そもそも誰なんだそいつはと思います。僕も思います。ラジオを聞いてください。

 

また、Xの方でお知らせはすると思いますので、

 

twitter.com

 

をよろしくお願いします。

 

前回の記事で言いましたが、1月の更新はこれで最後になります。

また2月からは週1で更新していき、1話1話はそれぞれ独立しているけれど、ひと月ごとで話がつながっている「すごい手の込んだ自分に負担しかかからない」コンセプトでやっていきたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。

 

飽きたらすぐやめます。

また、2月にお会いしましょう。

それでは。