哀愁感がどこか漂うカンツォーネが流れる店内に、等間隔に並べられているテーブル席の一角。
ドリンクバーからメロンソーダを入れて戻ってきた自分は、静かにソファへと座る。
すると、目の前に座っていた男が自分に向けて口を開いた。
「な? マジで来て正解だっただろ?」
細長い身体をした男は、ケタケタと笑いながら言うと、グラスに入ったコーラをストローで飲み始める。
「いや……全く思わないけど……」
だって、と言いかけたところで、突然自分の視界の外から現れた店員が、先ほど細長い男が注文していた、ミラノ風ドリアを手に持って運んできた。
「お待たせしました。ミラノ風ドリアです」
自分と細長い男は店員に軽い会釈をし、店員が「ごゆっくりどうぞ」と言い終え、2人の視界の外に消えていくのを見届けたあと、自分が話を続ける。
「絶対、帰って家でなんか食べたほうが何百倍も有意義だった。スーツ姿で男2人で恥ずかしい」
両手に持った辛味チキンを齧りながら言う。食べにくそうに辛味チキンを齧っている自分を見ながら細長い男は、ミラノ風ドリアをスプーンでひと口掬い上げ、息を静かにフゥフゥと吹きかけて食べようとしていた。
「てか、チキンの食い方下手くそすぎない?」
「ASMRみたいな息の吹きかけ方をしてドリアを食う奴に、死んでも言われたくない」
そう言い返した後、自分は大きなため息をついて、細長い男に向けて言う。
「そもそもなんで、こんな日に俺たちはサイゼ食ってんの」
まぁ今日は俺が奢るからさ、と細長い男はまた、ケタケタと笑っていた。
遡れば、成人式が行われる日である今日の朝になる。
いわゆる、20歳の門出を祝う成人式が行われる当日、自分は布団の中にいた。
ズカズカと人の部屋に入り込んできた母親が、布団に包まっている自分に向けて言う。
「一度しかないんだから、ちょっとくらい顔を出してきたらいいじゃない」
「いい。別に顔を出してまで会いたいような友達もいないし」
人生で一度しかない成人式に、全く行く気配を示さない息子を心配したのか、母親は行けばいいのに、と言う。
それでも自分は、成人式の場に行くつもりは微塵にもなかった。
行けないような理由があったからというわけではない。ただ、行かなくてもいいと思っていたからだった。
「じゃあ、私とお父さんは買い物に行ってくるから。もし、成人式に行くなら、せめてスーツはちゃんと着て行きなさいね」
そう言い残した後、母親は父親と一緒に2人で買い物へと出かけて行った。
1人だけ家に残された自分は、ベッドの上で寝ころびながら両目をゆっくりと閉じる。
「今日はこのまま部屋の中で、1日を終えよ……」
気持ちを落ち着かせるために、大きく深呼吸をしてみる。すると、身体の力がゆっくりと抜けていくのが、はっきりとわかった。
次にぱっと目を開くと、そこには見渡す限り一面緑色の景色が広がっていた。どうやら自分は今、名前も場所もわからない草原の上にいる。ゆっくりとその場に腰を下ろし、草原の上へと寝転がった。
まるでどこまでも続く大きな白いキャンバスに、青の絵具が入ったバケツをひっくり返したような真っ青な空を眺める。吹いている風は決して強すぎず、弱すぎることはない。優しく肌をなでるような、心地の良い風が自分を包み、周りの草たちを靡かせていた。
限りない幸せというのはここにあるのだろうと、思いながらゆっくりと瞼を閉じようとする。
『ピーンポーン』
どこか聞き覚えのある音が聞こえ、目を開けた自分の隣には、いつの間にか小さな鳥がいて、自分の顔を見つめていた。
「こんにちは、小鳥さん」
いきなり人間に話かけられると思っていなかったのか、隣にいた小鳥は一瞬不思議そうな顔を見せた後、自分に向けて挨拶を返してきた。
「こんにちは、あなたは100番目の迷える探究者さん」
「あぁ、中学生が作ったホームページのキリ番カウンターみたいなこと言うんだ。今の子それわかんないよ」
全部台無しだろ、と、首をかしげている小鳥に向けて嘆いていると、再びどこからか音が鳴った。
『ピーンポーン』
その音は次第に連続して鳴り響き、より大きな音になっていく。
『ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン』
「きっと、君のことを呼んでいるピヨ」
険しい顔をした小鳥が、自分に向けて言う。
「さっきまでそんな語尾付けてなかっただろ。わかったよ……」
そう言うとゆっくりと目を開けて、自分は現実の世界へと戻った。
「成人式、行こうぜ」
目の前にいる黒色のスーツを着た細長い男が、ケタケタと笑いながら言う。
「やだよ。行くつもりないし。あと人の家のチャイムを連打するのやめて。小鳥のしゃべり方がキモくなったから」
突然、自分の家に押しかけてきたこの細長い男は、自分が高校生の頃にできた、数少ない友達のうちの1人だった。
「寝てるところを起こしたのは、悪かったよ。とりあえずさ、スーツ着て行こうぜ」
軽く謝りながらも細長い男は、人の家の玄関前で、成人式へと自分を連れ出そうとする。
行く気はさらさらなかったが、無下に追い返すわけにもいかず、数分くらい逡巡した後、自分は「わかった。ちょっと待ってて」と口を開き、寝間着からスーツに着替えて、細長い男と共に成人式へと向かうことにした。
成人式の場に付くと、もうすでに多くの新成人たちで溢れていて、早くも来たことを自分は後悔し始めていた。
かつて、同じクラスで好きだった子の振袖姿を見れたこと以外は、特筆するべき部分がなく、あとは昔から何も変わっていない見た目をした「成人風大人」の群れがいるようにしか思えなかったのだ。
しばらくして、久しぶりに顔を合わしたかつての友人たちと軽く挨拶をした後、式典の時間が近づいてきたため、自分たちは指定された場所へと向かった。
式典では、全く知らない市長からのお祝いの言葉や、新成人によるスピーチなどが行われ、最終的に「僕たちは、共に熱くなれるメンバーを募集しています!」と、よくわらないサークルの勧誘に合い、こうして自分たちの一生に一度の成人式は終わりを告げた。
成人式からの帰りの途中、スーツを着崩した細長い男が、自分に向けて言う。
「な? マジで来て正解だっただろ?」
まるで成人式に連れてきた自分のことを、最優秀選手かのような言い方をする細長い男に呆れながらも、自分は言葉で強く跳ねのける。
「来なきゃよかったよ。なんか成人風大人だらけで疲れたし」
「なんだよそれ。ミラノ風ドリアみたいに。あ、サイゼ行こうぜ」
やだよ。なんでこんな日に、と返すと、細長い男は、またケタケタと笑っていた。
『大人になっても魔法とか超能力とか言うんですか。』をご覧のみなさん。
こんにちは、白瀬 濁(しらせ にごる)です。
ちょっとTwitterXでは、「白濁びゅるる」という名義でいいんですけど、ブログ上では「白瀬 濁」の名義でやらせてもらってもいいですか?いいですよね。いいと思います。まだ、始まったばっかなんでね。このブログもね。
試行錯誤しながらやっていきたいとおもてます。
まぁーね、あのー、本当に。すごい、こんなにめでたい日に、こんなことを言いたくはないんですけれども、アタクシ、成人式の思い出が何1つもないんですよね。本当に。
何もしてないんですよ。渋々成人式に行ったくせに。うっっっすい記憶しかなくて。
なんとかして「成人の日で一本ブログ書いたるで!」の気持ちで書き始めたけど、何もないから逃げましたよね。悪い癖ですね、これはね。
まぁでもとにかく新成人のみなさん、おめでとうございます。
どうも最近のオフラインは暗い話だらけなので、オンライン上くらいは明るくなればと思うばかりですね。本当に。難しい話でしょうけれども。
なのでこのブログも、もう少し文章能力をあげて、明るくハッピーな文章を書きなぐれるようにならないといけないかもしれません。
いや、それよりも前にまず、文章を書くに当たっての基礎から学ばないといけない気がしてきた。
もう一回、国語やり直そうかな。
では、またよろしくお願いします。