マッチング初詣アプリ

薄暗い1DKの部屋の中で、1人の男が立ち尽くしている。

全身黒色のスウェットを着た男が、片手に6インチのスマートフォンを持ちながら。

男はゆっくりと、棚の方に目を向けた。整頓された棚の上には、遊園地で撮影された仲睦まじそうな2人の男女の写真が、立てて飾られてある。

男はため息をつきながら、今にも零れそうな涙を目に浮かべると、小さな声で呟いた。

「終わった……」

男の声に生気は感じられない。

まるで道端に財布を落とした時のように、もしくは、あと数分で世界が滅亡すると知った時のように。男は、ただただ放心状態に陥っていたのだ。

 

男が持っているスマートフォンが、手からゆっくりと滑り落ち、床の上で大きな音を立てながら、軽快なブレイクダンスを見せつける。

やがて、踊るのをやめたスマートフォンは、白い光を放ったまま床に寝ころび、その6インチの画面には、1つのメッセージアプリの文字を映し出していた。

 

『別れましょう』

 

12月25日。街は煌びやかな飾り付けが行われ、陽気な音楽が流れるクリスマスの日。

男は、数年間付き合っていた彼女と、別れた。

 

「……っていうことがあったんだけど、マジで友達紹介してくんない? バイト先の優しくてイケメンの先輩が、彼女を探してるつってさ」

「なんですか、いきなり。嫌ですよ」

深く傷つき、大きく空いてしまった心の穴を埋めるのに必死だった男は、職場の後輩の女へと限りなくダルい絡み方をする。男なりの軽い冗談のつもりだったが、後輩の女は心底めんどくさそうにしていた。

「そもそも、私の友達は、みーんな彼氏持ちです。なので、諦めてください。あと、自分で優しいとか、イケメンとか言わないでください。気持ち悪いんで」

「みんな彼氏持ちなら仕方ないか……あと今、先輩に対して気持ち悪いって言った?」

生きづらい世の中パピ、と謎の語尾を付け独り言を呟く男を、後輩の女は無視したまま、目の前に山積みにされた段ボールの1つを降ろす。直線に閉じられたガムテープを、カッターナイフで切り、中身を取り出し男の方へと渡す。今日の2人に与えられた8時間の仕事内容は、この山積みにされた大量の段ボールの開封と、在庫の整理だった。

 

しばらくして、男は後輩の女から渡された物を棚に綺麗に並べながら、口を開く。

「はぁ……彼女と初詣に行きたかったなぁ……。来年はさ、2人で初詣に行こうね♡ って約束してたんだよ。このまま年を1人で越して、新年を1人で迎えるんだ。どこがハッピーニューイヤーだよ。アンハッピーニューイヤーだろ」

自分の横で、ブツブツとぼやき始める男に対して、嫌気が差した後輩の女が、男に向かって言う。

「うるさいなぁ……あ! あれやればいいじゃないですか。『マッチング初詣アプリ』ってやつ」

「『マッチング初詣アプリ』? マッチングアプリじゃなくて? あと今、先輩に対してうるさいって言った?」

 

マッチングアプリ。恋愛や結婚等を目的とし、登録されたプロフィールや写真を元に、会員同士をマッチングさせるというもの。

出会いの機会が限られている人や、自分と同じ趣味の人を見つけるきっかけにもなる、人気のサービスだ。

しかし、後輩の女が勧めてきたのは、そのマッチングアプリとは少し異なるアプリのようだった。

「えぇ。このアプリは、初詣に一緒に行く人同士を、マッチングさせるっていうのが目的のアプリらしいです。中でも『マッチくじ』っていうのが人気らしくて……」

いつしか後輩の女は、手に持っていた段ボールを床に置き、目をキラキラと輝かせながら男に話し出していた。

 

「マッチング初詣アプリ」、これは、登録された会員同士をマッチングさせるという部分は、従来のマッチングアプリと同じである。しかし、このアプリの特筆すべき点は、「初詣に行く人のみをマッチングさせる」というところだった。そのアプリ内にある「マッチくじ」と呼ばれるおみくじシステムが特に人気のようで、このおみくじを引いて出た内容を、自動的にAIが読み取り、相性のいい相手をおすすめユーザーとして表示することで、マッチングへと導き、初詣に一緒に行くことができるという、なんとも画期的なシステムなのですと、後輩の女は胸を張って教えてくれた。

 

「なんで初詣限定なんだよ。ただのマッチングアプリでいいだろこれ」

「まぁまぁ、細かいことは気にしないでください。フィクションなんで、この話。そもそも先輩が初詣に行きたいって言ったんじゃないですか。私は彼氏いるんで、先輩が使っておもしろ報告を聞かせてください」

こうして、男は自分のスマートフォンに『マッチング初詣アプリ』をインストールをした。アプリのインストールを終えると、先ほどまで止めていた仕事を再開し、2人の話はそこで終わった。

 

数日後、薄暗い部屋の隅に置かれたシングルベッドの上で、男は後輩の女に言われるがままインストールをした、マッチング初詣アプリを眺めていた。

『マッチくじの結果は……大吉! 恋愛は……出会いの機会あり!』

「うわ、こんなとこで運を使ってしまった。暇つぶしでインストールした、そんなにやる気のないソシャゲの強キャラを引いて、なくなく続けることになった気分だ」

スマートフォンの画面に表示されたデカデカとした赤色の文字を見ながら、男は深いため息をついた。

果たしてこんなよくわからないアプリ1つで、運命の出会いはあるのだろうか。

前の彼女と別れた傷が癒えていない男は、半信半疑のままマッチング初詣アプリの画面を見続けていた。

 

男が全てを諦め寝ようとした瞬間、アプリが突然「ピコンッ」と、可愛らしい通知の音を鳴らした。その音を聞いた男は急いで起き上がり、側に置いてあったスマートフォンを強く握りしめる。

 

そこには、『白濁びゅるる』と名乗る、1人のオタクとマッチングしていた。

 

「なんだこの名前……」

 

 

大人になっても魔法とか、超能力とか言うんですか。をご覧のみなさん、白濁びゅるるです。そんな、DAMチャンネルをご覧のみなさんみたいに。

 

あけましておめでとうございます。白濁びゅるるです。

 

すみません、ほんと新年から謝らせてください。本当は上の話、「この後、1人の女性とマッチングするも、ドタキャンをされて、1人で行った初詣先でおみくじを引いて、アプリのマッチくじと同じ大吉の結果が出るけど、そのおみくじには「恋愛:待人来ず」と書かれていて、やかましいわ」つって落とすつもりでしたが、これを書き上げると8000字ぐらいになって、

 

なんで雑記ブログに、マジ短編を書き上げないといけないんだ。

 

と思って諦めました。

まぁ、現実世界で起きたことに、フィクションをの解像度を上げて、そこにコメディ成分を無理やり放り込んだ文章を前置きにしてるので許してください。(?)

 

そんなわけで、2024年の初詣に行ってきました。おみくじを1人で悲しく引きました。結果は小吉という、なんとも微妙な結果で、今年1年頑張れるかわかりませんが、ゆっくりと元気にやっていこうと思います。

 

今年も何卒、よろしくお願いします。