名前会議

「名前」

人物や物体といった生き物、森羅万象ありとあらゆるものに付けられる名称のことを指す。産まれた赤ん坊、愛くるしい姿を見せるペット。はたまた、自分がこっそり書いているオリジナルの小説。何事においてもその名前というのは付けられている。例えば、「押してはダメです」と書かれたボタンを、ついつい押してしまいたくなる現象。もちろんダメだとわかってはいるが、どうしても「ダメです」と書かれていると、やってみたくなるというあの現象にも『カリギュラ効果』という名前が付いている。

 

そう。何事においても名前というのは、付いているのだ。

 

「新しく何かを始めたいし、新しいハンドルネームをつけたいな」

そんなことを思ったのは、理不尽な理由で客からクレームを受け、真顔で対応をしている時のことだった。

遡ること数十分前、店内で大声を叫ぶ客……と呼ぶには値しない、謎の言語を発する生物に対して、「うるせぇから店から出ていけよ」と言ったことが発端だった気がする。当然、普段なら客に対してそんな言葉は使わない。その時は、あまりにもその生物が大声を叫んでいたため、ダメだとはわかってはいたが、ついつい言ってしまったのだ。ただ、今となっては、そんなことはどうでもよかった。一度思いつくと、すぐ行動に移さないと気が済まない性格の自分は、目の前で起きていることを放棄し、このことについて深く考えることにした。

 

「ただいまより、『名前会議』を開催する──」

ここは、脳内にある小さな会議室。向かい合うようにして並べられた2つの白い長机と、それを囲うようにして、背もたれのある椅子たちが置いてある。その場に座っているのは、この会議の『メンバーである自分』と、この会議の『議長である自分』だ。

今からこの小さな会議室で行われようとしているのは、自分の新しいハンドルネームの案を出し合い、決めるという『名前会議』と呼ばれる会議だ。

 

「おい!お前、聞いてんのか!こっちはお客様だぞ!何がうるせぇから出ていけだ!」

目の前にいる客が、自分に向けて怒鳴り出す。

名前会議の途中だったが、現実に引きずり戻されてしまった。

「大変申し訳ございません。失礼ですが、先ほどからお客様の声が大きく、他の方の迷惑となっておりますので、どうかお帰りください」

普段、スターバックスコーヒーで調子に乗ってカスタムをする時に、「ブレべミルク」を「ブルべミルク」と言ってしまい、イエベ顔のスタバ店員にひきつった顔で微笑まれるくらい、すらすらと言葉を話せない自分が、その時だけは、流暢な言い方で客に向かって言うことができた。

こんな店二度と来るかよ、と客が捨て台詞を吐いて帰っていく様を見ながら、自分は名前会議の場へと戻る。慌てて自分が会議の場に戻ると、メンバーである自分のうちの1人から、案が出されようとしていた。

「思いつきました! 新しいハンドルネームは、『二度得ルナ(にどとく るな)』なんてどうでしょうか!?」

元気そうなメンバーである自分が、手を大きく挙げながら言った。

なるほど、『二度得ルナ』か。悪くはない。なんだか二回ほどお得になった気分になるし、『二度と来るな』という意味も込められている。これが『ダブルミーニング』という奴か。

 

「絶対に嫌。なんか底辺Vtuberみたいな名前ですごい嫌。誰がこんな配信で『どうも~! 二度得ルナでーす!』なんて視聴者を追い出すような名前を付けるんだよ。何が二度と来るなだ。底辺が偉そうにするな」

辛辣な言葉を言われ、元気そうなメンバーである自分の出した案は、議長である自分により、却下された。

 

やはり、名前というのは大事だ。こんなとっさの思いつきで付けていいようなものではない。

慣用句にも「名は体を表す」という言葉がある。名前というのは、その人物を表す上で最も重要なものだと言えるだろう。

 

しばらくして、端に座っていた物静かそうなメンバーである自分が、恐る恐る口を開いた。

「あの……過去にインターネットで、自分が使っていたハンドルネームからヒントを得るというのは、その……どうでしょうか……?」

そういえば、自分はインターネットに触れてから、かなりの年数になる。その中でいろいろなハンドルネームを使ってきた。確かに、今まで付けてきた自分のハンドルネームや、その名前の由来を参考にすれば、何か新しいハンドルネームを付けるにあたっての、ヒントが得られるのではないだろうかと考えた。

 

自分が初めてハンドルネームを付けたのは、インターネットを始めた中学3年生の時だ。今のインターネットの景色とは違い、あの時のインターネットでは、いわゆるBBS(電子掲示板)が主流で、とにかく自分はそのBBSにどっぷりとハマっていた。大した話をBBSでしていたわけではないが、その時に初めて付けた自分のハンドルネームは、『特攻隊』だ。ちょうど中学の授業で、神風特攻隊を習い、それがなぜかかっこいいと思ったのが理由だった気がする。

しかし、あの時の自分はなぜ神風特攻隊の頭の『神風』を取らずに、尻である『特攻隊』を取ったのかは、今でもわからない。これは自分七不思議のうち、5つ目に入る謎の1つとして、自分の中で語り継がれている。ちなみに、あとの6つはない。

恐らくだが、『神風』を名乗るには、当時の自分には恐れ多く、畏怖の念を感じたのだろう。

すると、物静かそうなメンバーである自分が、また口を開いた。今度はなぜか、自信満々そうに。

「それであれば、今こそ、『神風』の部分を名乗るというのは、どうでしょうか?中学3年生の時の自分は、神風と名乗るのを恐れ、あえて『特攻隊』と名乗りました。あれから成長し、大人になった今、『神風』と名乗るのには相応しいのではないでしょうか?」

なるほど、『神風』か。悪くはない。昔の自分と、今の自分を合わせて『神風特攻隊』か。2人合わせて『神風特攻隊』だ。君と僕とで『神風特攻隊』だ。

 

「絶対に嫌。なんか『きしょいヤン坊マー坊天気予報の歌』みたいですごい嫌。あと、ハンドルネームで神風とか名乗って許されるの、中高生までだから。いい歳した大人が神風とか名乗ってるの、相当痛い人か、ちょっと思想強い人だけだから」

またも辛辣な言葉を言われ、物静かそうなメンバーである自分の出した案は、議長である自分により、却下された。

 

その後も、シンプルに「ラム肉(ラム肉にハマっていたから)」などといった、様々なハンドルネームに対しての案が、メンバーである自分たちによって出されたが、すべて議長である自分は却下し、名前会議は振り出しへと戻るのであった。やがて、メンバーである自分たちは、誰一人として案を出さなくなり、会議の場に静寂が訪れる。今まさに、この名前会議は終わりを迎えようとしていた。

 

「名前を考え始めたのはいいものの、全然うまくいきませんね……」

悲しそうなメンバーである自分が、ポツリと呟く。その言葉の後に、全員が小さく頷いた。

思い返せば、何事もうまくいかないのは昔からだった。自分が初めて自転車に乗れたのは、周りと比べると少し遅かった。従兄弟が自転車どころか一輪車に乗って走り回っている頃に、自分は補助輪付きの自転車に乗っているぐらい遅かった。学校を卒業して初めて内定を貰って入社した会社では、無茶なノルマが設定され、自爆営業をせざるを得ない会社で、やがて精神がダメになり、なくなく退職した。そうやって、いつだって自分は、うまくいかなかったのだ。そんなことを考えていたら、目から涙が零れ落ちそうだった。

「待ってください……『涙目うるる』!! 涙目うるるなんてのは、どうですか!?」

議長である自分に、さんざん却下され続け、静まり返った会議の中で、すべてをひっくり返すと言わんばかりに、悲しそうなメンバーである自分が大きな声を出す。真っ暗となり、明かりのない中で、歩き続けている自分たちの行く先を照らす、まるで小さな灯のような案だった。

「なるほど、『涙目うるる』か。悪くはない。響きが可愛いし、いいね。決定で」

なんと、今まであれだけメンバーである自分たちが出してきた案を、すべて却下した議長である自分が、ついに首を縦に振ったのだ。

満場一致で決定した新しいハンドルネームは、『涙目うるる』。これからはこの名前を使っていくことにする。この会議にいる誰しもが喜び、手を合わせ、みんなで大きな祝杯をあげたのだった。

 

こうして、数十分間において開かれていた名前会議は、みな晴れて終わりを迎える……と、思われていた。メンバーである自分と、議長である自分の喜びの熱が冷めない中、バンッと、突然会議室の扉が開かれた。驚きを隠せないメンバーである自分たちと、議長である自分の視線の先には、『会議メンバーではない自分』が立っていた。

腕を組み、開いた扉にもたれかかり、大きくため息をついた後、会議メンバーではない自分は、全員に向けて言う。

「絶対に嫌。調べたらすでに似たような名前のVtuberがいるし。というか、『名前会議』って勝手に名前を付けてるけど、これって、『現実逃避』じゃない?」

 

そう。何事においても名前というのは、付いているのだ。

 

「ありがとうございました。またのご来店を、お待ちしております」

現実の仕事に戻った自分は、ごちそうさまでしたと笑顔で帰っていくお客様に向けて挨拶をし、小さくお辞儀をした。

 

 

初めまして、白濁(はくだく)びゅるるです。

あの、本当に「涙目うるる」で行こうとしてたんですけど、念のために調べたら本当に似たような方がいたので、考えに考えて、なんとか被らないような名前と、普通の名前では面白くない、インパクトのある名前を付けれないか、と考えに考えた結果、「白濁びゅるる」になりました。下ネタではありません。汚くもありません。こっちは真剣に考えました。

 

今日だけは、名前だけでも憶えて帰ってください。

 

あと、すみません。長々と読みにくい下手くそな文章を書いてしまって。

ただ待ってください。上の文を書き上げるのに3時間ぐらいかかったんです。なので大目に見てください。

 

更新頻度ですが、最低週一、あわよくば月一で趣味としてブログをしていきたいのと、とにかく1人でほそぼそと文章を書きなぐりたい場として、このブログを作りました。

 

基本テンプレートとしては、このようなくだらない文章と、続きに雑記というスタンスを目指しています。

 

何はともあれ、2024年から本格的に動かしていこうと思っております。

本当に暇で暇で仕方がない時に、見てもらえると光栄です。

 

あ、もう一度最後に名前を言っておきますね。

ここまでは、白濁びゅるるがお送りしました。